somewhere sometime



「やあ、こんにちは。」

現れた男は柔らかく微笑んだ。
30を少しすぎたくらいだろうか。
顔立ちも整っていたが、何よりもその空気に惹かれる。

そんな男だ。

尚香も、その手を取ったままの凌統も返す言葉を一瞬忘れた。


「今日は…そちらは彼氏かな。二人なんだね。」
聞き様によってはあまりよろしくない印象を与える言葉だったが、
いやらしさを感じることはない聞き方だった。

しかし、それを聞いて慌てたのは尚香だ。


「い、いいいいいえ!!こいつはただのトモダチです!
 彼氏なんかじゃなくて!!」

激しく弁解しながら凌統の手を振り払う。
それにより凌統もやっと正気を取り戻した。

「ホントに、凌統は友だち以外何者でもありませんから!」

(いや、そこまで言わなくてもいいっつーの;)
自分自身も尚香を友人としてしか思ってないが、そこまで否定されるのもどうかなと思う。

だが、この様子だと尚香の待ち人は目の前の男と見て間違いはない。
しかも彼に尚香が抱いている感情は…これも明らかで。

凌統は少し可笑しげに笑う。

(あの男勝りで「恋なんて必要ない」が口癖の姫がね。)


尚香は恋をしているのだ。この年上のサラリーマンらしき男に。
(可愛いとこあるじゃん。)

そう思い凌統は改めて相手の男を見た。


男は尚香に微笑んでいた。

「まあ、そう目くじらを立てないでくれないか。
 勘違いして悪かったね、尚香殿。」

「分かってくれたらいいんです…劉備さん。」
男の微笑みに、尚香は恥じらいつつ俯く。
初めてみる尚香の女性らしい仕草に、また凌統は驚く。

(なんつーか…恋すると変わるねえ。)
この少女にこんな仕草をさせるなんて。


「君もすまなかったね。凌統…と言ったかな。
 勘違いをして悪かったよ。」

「あ?いえ、オレは別に…。」
突然自分にかけられた声に驚いて意識を男に戻す。
すると、真っ直ぐに自分を見る瞳とぶつかった。


(…あれ…?)


どこかで 



「ええ?劉備さん、今日はもう行っちゃうの?」
尚香の声が聞こえた。
どうやら自分はまた意識を飛ばしていたらしい。
ぼんやりすることが多い日だな、と凌統は…気付かないふりをした。


「ああ。一週間ほどここには来られないから、それを伝えなければと思ってね。
 今日もあまり時間がないんだ。
 すまないね尚香殿。」

「一週間も?」

この口ぶりだとどうやらかなり二人で会っているようだ。
確かにこれが彼女の兄たちや父にバレたら、ただでは済むまい。
いくら人格的にはできていても歳が問題だろう…。
(歳がよくても娘の交際を許さないだろうご家族なのに。)


「出張だから仕方がないんだよ。」

「劉備さん、社長なのに?」

(しゃちょう?!)
その言葉にまた凌統は驚いた。
いや、社長といってもピンからキリまであるだろうが。
そこにいる男…劉備は、上に立つ男のイメージからは遠いところにある印象だった。


「社長だからね、余計に動かないと。」


「…また会ってくれますか?」

「ああ、そうだね。」


「じゃあ…また。」


「またいずれ。」


そう言うと、劉備は笑ってその場を去っていった。



######

「…で、これ口止め料ってわけね。」
「うるさいわね。高校生にこれ以上たかるつもり?」
「たかるって…いや、これで十分デスよ。」

公園での一時のあと、凌統は尚香にマク○ナルドに連れてこられた。
今言ったとおり、口止めのつもりなのだろう。
夕食の近い時間ではあるが、この程度は男子大学生にはおやつである。

…にしても…。

「姫、よく食うね。」
「ほっといて。」

話題のメ○マックにポテトのL、ついでにコーラもL。
年頃の女子高生にはちょっと似合わない量とつい思ってしまう。

しかも恋愛中の女子高生が食べる量にしては少し…。

だがこの話題を続けるのは凌統にも自殺行為であるのは良く分かっていた。
仕方ないので話題を変える。


「いつも会ってんの?」

その質問に、尚香はハンバーガーにかぶりつくのを止め、言った。
「…いつもじゃないわ。
 あの人があそこに来てくれたときだけ。」

(ってことは…)

「姫、いっつも待ってるの?」
「悪い?」
「い、いえ…。」

これは驚いた。
待ち伏せしていたのが今日だけではなかったとは。

「あの時間に来ることが多いって知って…。
 会いたくて、待ってるの。」

「夕方にねえ…。」
社会人が出歩くには不自然な時間だった。だが社長なら少しは融通が利いているのか。

「別にあの人はサボってるんじゃないの。
 昼休みの変わりにあの時間に休みを取らせてもらってるって…
 だから…。」

「ふーん、そんなに好きなんだ。」
あの男を弁護するほど、それができるほどに。


「うん…だから…黙ってて、凌統。
 お願い。」

「はあ…。」
別に言うつもりはなかった。
彼女のアニキには確かに頭があがらないし、
彼女のお父上は今度からは自分のトップだ。

けど、それはそれだと凌統は分かっていた。


「別に言うつもりはないけどさ。」
「…ホント?ありがとう…!」

尚香は嬉しそうに笑う。
(こんな顔させるなんて、あの劉備とかいう男もたいしたもんだ。)

凌統はしみじみと思い。
劉備の笑顔をふと、思い出した。


(そういえば…どこかで会ったことあるような…。)



そんな気がしたのを、思い出した。

(何だっけ…どっかで…。)









「…まあ、いっか。」

「何が?」

「いや、なんでもない。」


もう凌統は気にしなかった。
その時は胸の疼きはおさまっていたのだから。


                                  To be Continued…


やっとこさ3話目突入です;先は長いのに…;;
とりあえずファーストインパクトですが、まだ凌統は何も思い出しません。

ちなみに元夫婦はいまのところ尚香ちゃんの片想いかと。
…多分。(?!)


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